もう六年も昔の話。オーガスタのスタッフがライブハウスで発見した秦基博なるアーティストのライブを横浜のリザードというライブハウスまで観に行った。お客さんは片手の指で数えられるほどの中、社長はじめメインのスタッフが勢揃いし、例の腕を組んで、業界人特有の品定めポーズ、あの嫌な表情をそれぞれ浮かべていた。このときの様子はデビュー時のエピソードとして当時したためた。(http://amzn.to/iUjGzL)我ながら青臭く拙い文章だけど、いまでも一片の脚色無く、まざまざと感じられる想いだ。
アーティストがデビューする時、音楽制作としていの一番に行うことは、アーティストと話すことだ。当たり前のようだが、その人物の全体像を把握し、生い立ちを聞き、思想を理解した上どういう表現を目指していくかを共有する。いわばその人物のこれまでの人生を限られた時間で露わにしなくてはならない。これはなかなか困難な作業で、しばしばこの初期段階の作業の不備が後に大きな亀裂になってしまうこともよくある話だ。僕の場合は地方で時間を気にかけないでいいスケジュールをもらって「飲む」ことにしている。
秦とのこの「飲み会制作セッション」はデビューシングル「シンクロ」をプロジェクト全体が全速力ダッシュでリリースした後の広島キャンペーン時だった。オムニバスライブの打ち上げも兼ねていたためライブスタッフやイベンター、レコード会社のスタッフなども同席し、皆が初めて聞く秦のインサイド・ストーリーに興味津々であった。4時間くらいかけて、じっくりと、精神科医にでもなったつもりで、掘り起こした。
秦基博は、一言でいえば「純の人」であった。はじめは、新人アーティストに典型的な猫をかぶっている態度だと高をくくって話していくうちに、掘っても掘ってもむき出しの本音しか出てこない。裏側や、ホンネや、仮面や、かっこつけが全く見えてこないのだ。人生観についても、恋愛についてもひたすらに真摯で、むき出しで、露わだった。しまいには「それって本当か?本当に本当か?」「しつこすぎませんか?本当ですって!」・・・いらつかせてしまったくらい食い下がっていた。
このことは人間としては素晴しいことなのだけど、僕はある種の危惧を持ってしまった。表現者たるもの、何らかの仮面をかぶり続けることが、ステージ上に立つ人間、特にシンガーソングライターには必要条件だとそのときは思っていたからだ。コンプレックスや猜疑心、嫉妬やルサンチマン、そんな感情を秘めているからこそ、言葉以上の表現、つまりは音楽の活動を続けるチカラたりえるのではないか。これは唯一の絶対的な方法論として確信していたことですらあった。
愛するものをその気持ちのまま歌に込める。怒りの感情を露わにメロディーに乗せる。この秦の歌のスタイルはデビュー以来変っていない。歌詞でウラの意味を持たせたり、サウンドでひねったりはするけれど、感情の「正解」をいつでも秦は歌の中に込めてきた。秦基博という人間そのままの表現だった。文字通りの秦の歌。
ともするとそれは「クサイ」とか「ダサイ」と揶揄される方法論だったのかもしれない。臆することなく本音を現わすことがあらゆる分野でからかわれてきたように。このことこそ僕が抱いた危惧である。クールに感情を押し殺すことカッコイイとされ、本音をオブラートに隠せば隠すほど知的とされ、ニヒルであることが魅力的とされていた。
今年の3月10日までは。
震災はいろいろなものを変化させた。その中で上記の考え方の見直しが日本人に課せられたことが確かにあった気がする。価値は確実に変化したはずだ。少なくとも僕の中で絶対的ですらあったシンガーソングライターの方法論は簡単に崩れてしまった。かっこつけている余裕はない。ニヒルぶっている場合じゃない。誰もが「直接的な愛」を欲していたはずだ。
3月11日に秦はオフィスオーガスタの狭くて散らかっているスタジオにこもって曲を作っていた。そのときに創られていたメロディーがこの「水無月」であったかどうかは不明だが、「水無月」が震災をはさんで言葉が紡がれ、アレンジが模索されたのは確かなことなのだろう。
変らず秦はシンプルに、ストレートにこの曲を上梓した。すべての表現者が震災以降直面した苦悩やジレンマは、もちろん秦も感じたに違いないが、それでもやはり迷うことなく、変らずに思いを込めきったのがこの曲だ。
曲について多くを語りたくはないが、ただひとつ「希望」について。シンプルで、ストレートなこのメッセージは秦によってさらに直接的表現として、迷いも衒いもなく日本中に降り注ぐはずだと信じたい。この曲はむき出しの、ありのままの秦の「希望の歌」である。秦が選択した「今、そして未来へ伝えたいこと」そのものなのだ。
思い返せば、6年前、最初に秦に魅せられたのは、このありのままの表現による歌であったことを今では確信できる。すねて、ひねて、ニヒルに振る舞ってた自分を否定されることが怖かったから今までは意識できなかったのだけど。あの時と変らず秦は今でも素直に歌っている。なんのことはない。グルッと秦のまわりを一周して今日にたどり着いたににすぎない。僕も、音楽業界も、世間も。
「ボクラ、メグッテタ、ハタ」ということだったのだ。単純なことだ。やっぱりそうだった。
単純な言葉で 愛を今 叫ぼう あるがままの僕らの声を集めて・・・
力強く響く歌声とメロディ、秦 基博 待望の2011年第一弾シングル!!
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